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在庫管理の重要性 小売業の場合 財務と販売促進の視点から考えてみた 

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この記事は、小売業における在庫管理の重要性について解説しています。特に財務と販売促進の視点から在庫管理の重要性を考え、在庫最適化の手法や効果を具体的に説明しています。
 

はじめに


在庫管理と言うと、小規模店舗オーナーをはじめとする多くの小売業にとって頭の痛い課題の一つかもしれません。しかし、適切な在庫管理は店舗の健全な経営と業績向上に直結する非常に重要な要素となります。この記事では、財務の健全性を保ちつつ、販売機会を最大化するための在庫管理の基本を、具体的にご紹介します。

:財務における在庫管理の重要性


  1. 在庫と財務健全性
    1. 在庫は資産の一部です。適切な在庫量を保持することで、流動資産を最適化し、資金の回転をスムーズにします。売れ筋商品を適切にストックすることで、販売機会のロスを減少させ、収益の最大化を図ることができます。
  1. 財務への影響を理解する
      • 過剰在庫:資金が固定化し、流動性が低下。長期間在庫として保持されると、商品の価値が下がるリスクも。
      • 過少在庫:販売機会の損失や、緊急の仕入れによる追加コストが発生。
      適切な在庫管理は、これらのリスクを減少させ、財務の健全性を保ちます。
  1. 資金の適切な管理
      • ダラーコントロール(金額による在庫管理):資金の動きや財務の流れを中心に、商品の在庫を管理する方法。しかし、商品の詳細な動向を完全には把握し難いため、次に述べる数量による在庫管理との併用が必要となります。
      • ユニットコントロール(数量による在庫管理):具体的な商品の数量や動きを中心に管理する方法。その基本は、カテゴリごとに、どのようなアイテムが何個売れたかを把握することにあります。これによって、どのような種類の商品をどれだけ仕入れたらよいのかという数量面での把握が可能となります。
  1. 商品回転率の意味
      • 商品回転率の計算方法
        • 商品回転率は、一定期間内に店舗の在庫が何回「回転」したかを示す指標です。具体的な計算方法は以下の通りです:
          商品回転率=期間内の売上高÷期首と期末の平均在庫高
      • 期間内の売上高:一定期間(例:1年間)における商品の売上高。
      • 期首と期末の平均在庫高:期間の初めと終わりの在庫の平均金額。
        • 例:ある店舗が1年間に1,000万円の売上があり、年初と年末の在庫平均が500万円だった場合、
          商品回転率=1,000万円÷500万円=2回
          この場合、商品回転率は2回となります。これは1年間で在庫が2回完全に新しく入れ替わったことを示しています。
      • 商品回転率が財務に与える影響
          1. 流動資産の最適化:商品回転率が高い場合、その店舗は在庫を効率的に回転させていることを意味します。この結果、資金が在庫に固定されることなく、他の投資や業務に活用できるため、流動資産の効率が向上します。
          1. キャッシュフローの改善:商品回転率が高く、商品が早く売れるということは、キャッシュフローがスムーズであることを意味します。これによって、資金繰りが良好となり、不要な借入れを減少させることが可能になります。
          1. 在庫のリスク低減:高い商品回転率は、長期間の在庫保有リスクを低減させます。商品の陳腐化や価格の変動リスクが減少し、資産の価値を維持することができます。
          1. 利益率の向上:在庫を効率的に回転させることは、売上の機会を最大化し、結果的に利益率の向上に寄与します。逆に、商品回転率が低いと、在庫の維持費用や陳腐化による価格引き下げなどが発生し、利益率が低下する恐れがあります。
      商品回転率は、店舗の財務健全性や経営効率を示す重要な指標の一つです。この指標を適切に管理・分析することで、経営の方向性を正しく導き、ビジネスの持続的な成長を実現することができます。

:販売促進における在庫管理の重要性


  1. 在庫の最適化とお客様の満足度
    1. 適切な商品の在庫を持つことで、顧客のニーズに迅速に応え、高い満足度を得ることができます。
      • 顧客の期待への対応: 顧客が商品を求めた時、それが店頭に常に用意されていることは、顧客の期待に応えることになります。特に、急な需要や季節性のある商品に対して、適切に在庫を持っていることは大切です。
      • ロイヤルティ(忠誠度)の向上: 顧客の要求を継続的に満たすことは、顧客のロイヤルティ(忠誠度)を高める効果があります。顧客は自分のニーズが迅速に満たされる店舗に再訪する傾向が強いといえます。
  1. 販売機会の最大化
    1. 売れ筋商品の適切な在庫を保持することで、欠品を防ぎ、販売のチャンスを増やします。
      • 欠品のリスク低減: 人気商品の欠品は、その場の売上機会損失だけでなく、顧客の不満を引き起こし、将来の売上にも影響を及ぼす恐れがあります。
      • クロスセリングのチャンス: 適切な在庫を保持することで、関連商品やアクセサリー・オプションの販売のチャンスも増えます。例えば、ある商品を求める顧客に対して、それに関連する商品を提案することが容易になります。
  1. 商品回転率と販売促進の関係
    1. 商品回転率は、在庫商品がどれだけ迅速に売れているかを示す指標として、販売促進の観点からも重要な役割を果たします。以下に、商品回転率が販売促進に与える具体的な影響を示します。
      1. 顧客の購買意欲の維持: 高い商品回転率は、商品が頻繁に入れ替わることを意味します。これにより、顧客にとっては新しい商品やトレンドに合わせた品揃えを期待できるため、リピート訪問の動機となり得ます。
      1. 在庫の鮮度保持: 食品やファッションなどの業界では、新鮮さや時宜性(適時性)が求められます。高い商品回転率は、商品が新鮮で最新の状態を保っていることを示し、顧客の購入意欲を高める要因となります。
      1. 過剰在庫の回避とプロモーション活動: 商品回転率が低い場合、それは売れ筋でない商品が在庫として滞留している可能性が高いといえます。この事実が判明した段階で割引販売や特別プロモーションを実施して、販売促進を推進するきっかけとします。
      1. 購買データの収集と分析: 商品回転率を元に、どの商品がよく売れているのか、どの商品が滞留しているのかを分析することで、顧客のニーズや好みを正確に把握することができます。これを基に、次回の仕入れやマーケティング戦略を最適化して、更なる販売促進を図ることができます。
      1. ブランドイメージの強化: 高い商品回転率は、店舗が常に求められる商品を提供しているという印象を顧客に与えます。これは、店舗やブランドの信頼性とイメージを高める要因となり、長期的な顧客ロイヤルティ(忠誠度)の構築に寄与します。
      商品回転率は、単に在庫管理の観点からだけでなく、販売促進やマーケティング戦略の策定にも非常に有用な指標となります。この指標を活用し、店舗の販売戦略を最適化することで、更なる販売の拡大を目指すことができます。

:在庫を最適化する手法


最後に、上記で述べた商品回転率の活用のほか、財務の健全性を保ちつつ、販売機会を最大化するという目的達成に役立つ在庫管理の手法をいくつか簡単にご紹介します。
  1. 需要予測の導入
      • 過去の販売データやトレンドを元に、将来の需要を予測。
      • シンプルなExcelのグラフや専用のソフトウェアを使用して、販売データのトレンドを分析。
  1. 経験や直感を活用する
      • 一定のデータやツールに頼るだけでなく、経験や直感も大切。
      • 例:地域のイベントや祭りを考慮して、特定の商品の在庫を増やす。
  1. 安全在庫の設定
      • 予期せぬ需要の増加や供給の遅延に備えて、最低限の在庫を保持。
  1. ABC分析を用いる
      • ABC分析とは、商品や在庫を売上や利益などの基準に基づき、重要度や優先度に応じてカテゴリ分けする分析方法。
      • 例えば、商品を売れ筋順にランク付けし、Aランク(売れ筋)の商品は常に十分な在庫を確保し、Cランク(あまり売れない商品)の在庫は最小限にするといった具合です。
  1. リードタイムの短縮
      • 供給元とのコミュニケーションを頻繁に取り、商品の再入荷までの時間を短縮。
  1. 定期的な在庫の見直し
      • 定期的に在庫を確認し、過剰在庫や不足在庫を調整。
  1. デッドストック(死に筋商品)の削減
      • 長期間売れ残っている商品は、セールやバーゲンで処分。
  1. 先取り発注
      • 予想される需要のピーク時に備えて、事前に在庫を増やします。
  1. ジャストインタイム(JIT)方式の導入
      • 必要な時に必要な量だけ仕入れる方法。大企業向けの手法とされますが、適切に適用すれば小規模店舗でも効果的と考えられます。
  1. テクノロジーの活用
      • 在庫管理ソフトウェアやPOSシステムを導入して、在庫の動きをリアルタイムで把握。
これらの手法は、事業の規模や業種、地域などの条件に応じて適切に組み合わせることで、最大の効果を発揮することができます。

おわりに


在庫管理は継続的な努力が必要な業務であり、一度の取り組みだけで完璧になるものではありません。しかし、今回紹介した方法を業務の中に定期的に取り入れることで、店舗経営がよりスムーズになり、販売の機会を増やすことができると考えられます。末永く安定した店舗経営を目指す上で、ぜひ参考にしていただければ幸いです。
 

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