小売業の販促を考えていると、「暑くなれば夏物が売れる」「寒くなれば冬物が売れる」という言葉をよく使います。
もちろん、気温と商品の売れ行きには関係があります。暑くなれば冷たい飲料や暑さ対策商品が動き、寒くなれば防寒衣料や暖房用品への需要が高まります。
しかし、家計調査と気象データを重ねて見ていると、気温と消費を直接結びつけるだけでは、実際の動きを説明できないことがあります。
気温が変わることで、まず変わるのは生活者の行動です。その結果、必要性や緊急性が変わり、支出先が変わります。
販促を考えるときに見るべきなのは、気温そのものよりも、「その気温によって生活者の何が変わるのか」ではないでしょうか。
猛暑でも、消費全体が増えるとは限らない
一つの例が、2026年7月です。
気象庁「2026年7月の天候」によると、この月は北・東・西日本で気温がかなり高く、下旬には関東甲信、東海、四国、九州北部で酷暑日となった所もありました。
十分に「暑い夏」だったといえます。
ところが、総務省「家計調査」の消費支出は1世帯当たり301,245円。物価変動の影響を除いた実質では、前年同月比3.6%減でした。
中身を見ると、教養娯楽は実質4.8%増となり、宿泊料が増加項目の上位に入り、外食も伸びました。一方、交通・通信は8.5%減、住居は16.4%減。自動車購入は26.5%減でした。
もちろん、これらの増減を猛暑だけで説明することはできません。
重要なのは、これだけ暑くても、家計全体が一様に「消費増」へ動いたわけではなかったということです。
暑さは財布全体を緩める条件というより、生活者に「何を急いで買うか」「何を後回しにするか」を変えさせる条件として考えた方が、実際の消費に近いと考えられます。
当社ではこれを、「猛暑は売れる条件ではなく、何かを急かす条件」と捉えています。
気温と売上の間には、生活者の行動がある
「暑くなる」から「売れる」へ直接線を引くのではなく、その間を分解してみます。
気温が変わる
→生活者の行動が変わる
→必要性・緊急性が変わる
→支出先が変わる
この順番です。
例えば、猛暑によって暑さ対策商品の緊急性が高まることはあります。しかし、同時に外出を控えたり、急ぐ必要のない買い物を後回しにしたりすることも考えられます。
同じ「暑い」という条件でも、すべての商品やサービスが同じ方向に動くわけではありません。
気象データを販促に使うのであれば、気温の高低だけではなく、その変化がどのような行動を生むのかまで考える必要があります。
冬は「その月の気温」だけでは読めない
もう一つ考えておきたいのが、冬物需要です。
2025年11月、被服は実質7.5%増、家具・家事用品は10.6%増となりました。ところが12月になると、被服は8.9%減へ反転し、家具・家事用品も2.3%増まで伸びが鈍化しました。
気象条件も変わっています。気象庁によると、2025年12月は冬型の気圧配置が長続きせず、全国的に気温が高い月でした。
ここだけを見ると、「暖冬だったから冬物需要が弱くなった」と説明したくなります。
しかし、それだけでは十分ではありません。
11月の段階ですでに被服や家具・家事用品が大きく動いています。必要な防寒衣料や寝具などを11月に購入した世帯があったとすれば、12月の需要にはその反動も含まれていた可能性があります。
家計調査だけから、12月の被服減が暖冬によるものなのか、11月の先行購入によるものなのか、その割合まで識別することはできません。
ここで重要なのは、「暖かかったから売れなかった」と結論づけることではありません。
むしろ、冬物需要を考えるときには、その月の気温だけでなく、それ以前に需要がどこまで顕在化していたのかを見る必要がある、ということです。
「寒くなるから冬物を増やす」の一歩先へ
例えば、「来週から気温が大きく下がる」という予報が出たとします。
そこで、
「寒くなる」
→「冬物を増やす」
と考えるだけでは、まだ判断材料が足りません。
今年初めての本格的な寒さなのか。すでに寒い日があり、防寒用品を購入した人が多いのか。急に必要になる商品は何か。寒さが長続きしなかった場合、どの売場へ切り替えるのか。
同じ気温予報でも、それまでの気温と購買の経過によって、販促の意味は変わります。
これは夏でも同じです。
「猛暑予報だから夏物を増やす」ではなく、猛暑によって何の緊急性が高まるのか。逆に何が後回しになるのか。生活者の行動がどう変わるのか。
そこまで考えて初めて、気象情報を販促計画に落とし込むことができます。
天気予報を、そのまま売上予報にしない
気象データは、販促を考えるうえで重要な情報です。
ただし、「暑いから売れる」「寒いから売れる」と単純化すると、判断を誤る可能性があります。
2026年7月の事例から分かるのは、猛暑でも消費全体が一様に増えるわけではないということです。
2025年11~12月の事例から考えたいのは、その月の気温だけでは需要を判断できず、それまでに需要がどこまで動いていたかも見る必要があるということです。
この二つは、同じ話ではありません。
しかし、共通していることがあります。
気温と売上の間には、生活者の行動があるということです。
気温が変わる。
生活者の行動が変わる。
必要性や緊急性が変わる。
その結果として、支出先が変わる。
販促設計では、この間を読むことが重要です。
天気予報は、売上予報ではありません。
だからこそ、気象データそのものではなく、そこから生活者の行動がどう変わるかを考えることが、次の販促判断につながります。
では、「販促設計」とは何をすることなのか
この記事では、気温と消費の関係を例に、外部環境の変化をそのまま売上へ結びつけず、生活者の行動を介して販促判断へつなげる考え方を取り上げました。
これは、当社が「販促設計」と呼んでいる仕事の一例です。
当社が考える「販促設計」については、「販促設計とは何か――消費動向を『次の一手』に変えるための考え方」で、市場・消費データの分析から予測、販促計画、実績検証までの流れを紹介しています。
→ 【関連記事】販促設計とは何か――消費動向を「次の一手」に変えるための考え方
出典
総務省「家計調査」(2026年7月分、2025年11月・12月分)
気象庁「2026年7月の天候」「2025年12月の天候」