市場や消費の動きを予測するとき、前年に大きく伸びた数字には注意が必要です。
一時的な需要や特殊要因によって急増した数字は、翌年にその反動が出ることがあります。そのため当社でも、前年に大きく動いた費目については、その伸びをそのまま翌年の予測材料にしないようにしています。
ところが、2026年7月の家計調査を検証してみると、もう一つ注意すべき数字があることに気づきました。
それは、「長く伸び続けている数字」です。
今回は、3か月前に行った2026年7月の消費予測と実績を照合しながら、市場予測で「続いている数字」をどう扱うべきか考えます。
2026年7月は「伸びる費目と沈む費目が分かれる」と予測
当社では、家計調査や気象データなどの公開情報をもとに、数か月先の消費環境を分析しています。
2026年7月については、月全体を一律に「強い」「弱い」と見るのではなく、伸びる費目と沈む費目の差が大きくなる「分散月」になると考えていました。
実際、総務省「家計調査」によると、2026年7月の1世帯あたり消費支出は301,245円。前年同月比では名目1.5%減、物価変動を除いた実質では3.6%減となりました。
ただし、すべての費目が同じように減ったわけではありません。
教養娯楽は実質4.8%増となった一方、交通・通信は8.5%減、住居は16.4%減でした。
全体として消費が冷え込んだというより、「使うところ」と「使わないところ」の差が大きく表れた月と見ることができます。
月全体の数字だけで判断せず、費目ごとの動きを見る必要があるという予測は、実績ともおおむね整合しました。
前年に急増した数字は、そのまま使わない
予測段階でもう一つ注意していたのが、自動車関連です。
前年の2025年7月には自動車関連支出が大きく増えていました。
しかし、自動車は毎年同じように購入するものではありません。前年に大きく伸びたからといって、それを「7月は自動車関連支出が強い」と一般化してしまえば、翌年の予測を誤る可能性があります。
そこで2026年7月については、前年の急増をいったん脇に置き、反動が出る可能性を考えました。
実績では、自動車等関係費が実質8.5%減、自動車購入は26.5%減となりました。
前年に突出した数字を見つけたときには、
「なぜ伸びたのか」
「その要因は今年も存在するのか」
を確認する。
これは市場予測において重要な手順だと考えています。
猛暑でも消費全体が増えるわけではない
2026年7月には、もう一つ大きな条件がありました。暑さです。
気象庁によると、7月の気温は北・東・西日本でかなり高く、下旬には関東甲信、東海、四国、九州北部で酷暑日となった地点もありました。
こうした予報を見ると、「猛暑だから夏物需要が伸びる」と考えたくなります。
しかし当社では、予測段階から「猛暑は売れる条件ではなく、何かを急かす条件」と捉えていました。
暑くなったから消費者の財布全体が緩むのではありません。
暑さによって必要性や緊急性が高まったものへ支出が向かう一方、急ぐ必要のない支出は後回しになる可能性があります。
実際、2026年7月は暑い月でしたが、消費支出全体では実質3.6%減でした。
気温と消費を直接結びつけるのではなく、
気温が変わる
→生活者の行動が変わる
→必要性や緊急性が変わる
→支出先が変わる
という段階で考える必要があります。
予測で外したのは「13か月続いた数字」
一方、今回の予測で明確に外れたものがあります。
保健医療です。
予測時点では、保健医療の実質増加が13か月連続していました。
単月だけの増加であれば一時的な変動を疑います。しかし、1年以上にわたって増加が続いていたため、当社では「一時的な変動ではなく、定着しつつある傾向」と判断しました。
ところが2026年7月、保健医療は実質6.0%減となり、14か月ぶりの減少に転じました。
ここに今回の検証で最も重要な学びがあります。
「前年に急増した数字」を疑うだけでは不十分だったのです。
長く増加が続いている数字も、その延長線上に翌月や翌年を置いてしまえば、「これまで続いてきたから、これからも続く」という予測になってしまいます。
これは形こそ違いますが、前年の急増をそのまま翌年へ延ばすことと同じ問題を含んでいます。
「何か月続いたか」より「なぜ続いているのか」
もちろん、長期的な増加傾向そのものを予測材料から外す必要はありません。
むしろ、継続している動きは重要な情報です。
問題は、「続いていること」自体を、その動きが今後も続く理由にしてしまうことです。
たとえば13か月連続で増加している費目があれば、
「13か月続いているから次も伸びる」
ではなく、
「なぜ13か月続いているのか」
「その原因は現在も残っているのか」
「比較対象となる前年の数字はどうだったのか」
「反転するとしたら、どのような条件が考えられるのか」
まで確認する必要があります。
市場予測では、数字の長さよりも、その数字を生み出している背景を見ることが重要です。
予測は「当てること」だけが目的ではない
当社では、市場予測を作成した後、実績が公表された段階で予測との照合を行っています。
今回の2026年7月についても、「分散月」という見方、自動車関連の反動、猛暑の捉え方については、おおむね実績と整合しました。
一方で、保健医療については外れました。
しかし、予測を検証する意味は、何勝何敗だったかを数えることではありません。
重要なのは、
「なぜ、その予測をしたのか」
「どの前提が実績と違ったのか」
「次回は何を確認すべきなのか」
を明らかにすることです。
今回でいえば、「前年に急増した数字を疑う」という従来の確認に加えて、「長く続いている数字も、一度立ち止まって疑う」という新しい確認項目が加わりました。
予測を作り、実績と照合し、その結果から予測の方法そのものを更新していく。
市場予測を次の判断につなげるためには、この繰り返しが重要だと考えています。
「ずっと伸びているから安心」を疑ってみる
売上や市場データを見ていると、急激な変化には自然と目が向きます。
一方、毎月同じ方向へ動き続けている数字は、次第に「いつもの動き」として受け入れてしまいがちです。
しかし、市場環境も生活者の行動も変わります。
急増した数字を疑う。
急減した数字を疑う。
そして、長く続いている数字も疑う。
市場予測で必要なのは、将来を言い当てること以上に、予測の前提を一つずつ確認することなのかもしれません。
「ずっと伸びているから安心」。
そう感じた数字ほど、あらためて「なぜ伸びているのか」を確認する。
今回の検証から得た、次の予測に向けた一つの教訓です。
当社の市場予測レポートについて
当社の市場予測レポートでは、予測結果だけでなく、前提と実績の差を検証できる形で整理しています。この記事で示した収入と天候の二つの前提は、当社が予測を組み立てる際に用いる5層の枠組みの一部です。枠組みの全体像と設計思想は、下記の記事でご覧いただけます。
市場予測は「当てるため」ではなく「外れたときに動くため」にある──小売チェーン向け5層分析の考え方
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出典
総務省「家計調査」(2026年7月分、2026年9月4日公表)
気象庁「2026年7月の天候」(2026年8月3日掲載)