半年先の売場を準備したのに、想定とまったく違う展開になった。小売の現場でよく聞く話です。販促計画を組み、商品を手配し、広告を打った後で、気温が想定と違った、競合が予想外の施策を打った、消費者の反応が鈍かった。理由はいくらでも挙がります。
しかし、予測が外れること自体は問題ではありません。本当の問題は、外れたときに対応できないこと、そして「なぜ外れたのか」を説明できないことです。
当社は20年以上にわたり、総合スーパー、食品スーパー、ドラッグストア、ホームセンター、ディスカウントストア、百貨店、家電量販店といった複数の業態で、折込広告の分析と市場予測に携わってきました。その経験から言えるのは、予測の精度を上げることよりも、外れても説明でき、対応できる枠組みを持つほうが実務では役に立つということです。
本稿では、業態を問わず使える市場予測の考え方を、5つの層に分けた枠組みとして整理します。当社が小売チェーン向けに作成する市場予測レポートも、この枠組みに沿って組み立てています。
*本稿のもとになった記事は、noteマネーにピックアップされました。
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【目次】
なぜ「当てにいく予測」は使いものにならないのか
予測を1本の数字で出すと、その数字が現場の前提になります。前提が1つしかない状態で条件が変われば、計画そのものを組み直すしかありません。しかし半年がかりで準備を進めている最中に計画を白紙に戻すことは、実務上ほぼ不可能です。結果として、外れたと分かっていながら当初の計画をそのまま実行することになります。
外れたときに動ける状態とは、条件が変わった場合に何をどう変えるかが、あらかじめ決まっている状態です。そのためには、予測を1本の数字ではなく、要因ごとに分解された構造として持っておく必要があります。どの要因が想定と違ったのかが分かれば、その要因に紐づく打ち手だけを差し替えられます。
5層に分ける目的は、まさにここにあります。精度を上げるためではなく、切り分けられるようにするためです。
5層分析の全体像
小売市場の予測は、次の5つの層を順番に確認して組み立てます。

段階 | 分類名 | 内容 |
|---|---|---|
第1層 | 経済環境 | 消費の土台となる条件 |
第2層 | 消費者心理 | 購買意欲と価格への敏感さ |
第3層 | 業態動向 | 業態全体にかかる追い風・逆風 |
第4層 | カテゴリ・地域 | 需要の濃淡 |
第5層 | 気象・季節 | 需要が立ち上がる時期 |
上の層ほど広く、下の層ほど具体的になります。上から順に見ていくのは、下の層の解釈が上の層の前提に左右されるためです。同じ気温低下でも、消費者が節約に傾いている局面と、価値を重視している局面では、売場の反応が変わります。順序を逆にすると、目の前の具体的な動きを土台の条件と切り離して読んでしまいます。
最後に5つを統合して、ベース・上振れ・下振れという3つの見通しを作ります。この形にしておくことで、実際の結果が想定と違ったときに、どの層の見立てがずれたのかを特定できます。
第1層 経済環境という土台
最初に、消費全体を取り巻く条件を確認します。主に見るのは、国内総生産の名目値と実質値、賃金の動向、政策金利と長期金利、為替、そして家計が自由に使えるお金に影響する制度の変更です。減税、給付、社会保険料の改定などが該当します。
ここで補足すると、名目は物価の変動を含んだ金額、実質は物価の変動を取り除いた後の金額です。賃金が名目で上がっていても、物価がそれ以上に上がっていれば実質では下がります。この差が、消費者の実感を左右します。
重要なのは、指標を並べることではなく、小売にとって何を意味するかへ翻訳することです。賃金が上がっても別の負担増で相殺される層があれば、消費は二極化しやすくなります。円安が続けば仕入れ価格は下がりにくく、価格への敏感さが残ります。この土台の読み方が、以降の4つの層すべての前提になります。
第2層 消費者の受け止め方
経済の実態と、消費者がそれをどう感じているかは一致しません。第2層では、購買意欲と価格への敏感さを確認します。
主なデータは、内閣府の消費者態度指数、景気ウォッチャー調査、消費動向調査に含まれる物価の見通しです。景気ウォッチャー調査は、小売やサービスの現場で働く人が景気の実感を回答するもので、統計に表れる前の空気を拾える点に特徴があります。
この層で得たい結論は一つです。買い控えが優勢か、価格重視が優勢か、価値重視が優勢か。ここが、販促で何を訴えるかを決めます。買い控えが強い局面では必要性を、価格重視の局面では得であることを、価値重視の局面では品質や安心を前面に出す。同じ商品でも、伝える理由が変わります。
第3層 業態全体の追い風と逆風
第3層では、自社が属する業態にかかっている力を確認します。主なデータは経済産業省の商業動態統計です。
業態単位の販売動向を押さえると、二つのことが分かります。業態全体が伸びているなかで自社がどの位置にいるのか。逆に業態全体が逆風のなかで、何を優先すべきなのか。自社の数字だけを見ていると、業態全体の動きなのか自社固有の問題なのかを区別できません。
あわせて、同業他社の月次動向、新規出店、価格政策、品揃えの変化を定点で観測し、競合環境の変化を織り込みます。定点観測が必要なのは、変化そのものより変化の速さが判断材料になるためです。
第4層 カテゴリと地域の濃淡
第4層では、重点カテゴリと商圏の特性を掘り下げます。
カテゴリについては、総務省統計局の家計調査を主に使います。家計調査は品目が細かく、支出がどこへ動いたかを捉えやすい統計です。ここから、生活者が何を節約し、何に支出しているかという優先順位を読みます。
地域については、景気ウォッチャー調査の地域別指数などを使います。全国平均と自社の商圏との差を見ることで、同じ施策でも通りやすい地域と通りにくい地域が見えてきます。
カテゴリと地域を掛け合わせると、需要の濃淡が具体的な形になります。全国平均で見れば横ばいの商品が、特定の地域では動いている。あるいはその逆。この差を無視した全店一律の計画は、どの店舗にも最適化されていない計画になります。
第5層 気象と季節需要の立ち上がり
最後の層は気象です。小売では影響が大きく、とくに需要が立ち上がる時期を左右します。
使うのは気象庁の過去実績と3か月予報、必要に応じて民間気象会社の長期予報です。
なお、予測の対象期間が長くなるほど、気象について確度の高い材料は得にくくなります。半年先を見る場合、気象の層は「こうなる」という見立てではなく、「どちらに振れた場合に何を変えるか」という対応の設計として組み込むことになります。期間が延びるほど、次に述べる対応表の重要度が上がります。
気象は確実ではありません。だからこそ、この層では「予報がどうか」よりも「予報が外れたときにどう動くか」を先に決めておくことが実務では効きます。気温が想定より高く推移した場合に何を後ろ倒しにするか、低く推移した場合に何を前倒しにするか。この対応表を持っているかどうかが、現場の動きの速さを決めます。
また、月単位・全国単位の見方では実態を取り逃がすことがあります。同じ月でも、旬ごとに条件が大きく変わる年があり、地域によって寒さの入り方が違います。気象の層は、週単位・地域単位まで下ろして初めて売場の判断に使えます。
統合:3つの見通しを作る
5つの層の情報を統合して、3つの見通しを作ります。
ベースは最も起こりやすい展開、上振れは需要が想定以上に伸びる展開、下振れは想定を下回る展開です。3つに分ける目的は、どれが当たるかを賭けることではありません。3つの展開それぞれについて、何を変えるかを事前に決めておくことです。
この形にしておけば、実際の展開がどれに近いかを月の途中で判断し、対応する打ち手に切り替えられます。そして結果が出た後には、どの層の想定がずれたのかを特定し、次回の予測に反映できます。予測は一度きりの作業ではなく、繰り返すことで自社の商圏に合った読み方が蓄積されていくものです。
売上高を「数量」と「単価」に分ける理由
3つの見通しそれぞれで、売上高を販売数量と平均単価に分解します。
売上高が前年を下回ったという事実だけでは、打ち手が決まりません。数量が減ったのか、単価が下がったのかで、原因も対応もまったく違います。数量の減少は来店客数や購買頻度、品揃えの問題を示唆します。単価の下落は価格政策や商品構成、あるいは消費者の価格志向の強まりを示唆します。
予測の段階でこの2つを分けておくと、実績が出たときに突き合わせができます。数量は想定どおりだが単価が想定を下回った、という形で確認できれば、原因の切り分けが速くなります。売上高という1本の数字で予測すると、この切り分けができません。
業態ごとに、どの層を厚く見るか
5つの層の構造は業態を問わず共通ですが、それぞれの層で何を重点的に見るかは業態によって変わります。
食品スーパーでは、生鮮品の価格変動と競合の特売動向を厚く見ます。生鮮は天候によって仕入れ価格が動き、それが売価と粗利の両方に影響します。第5層の気象と第3層の競合環境が、他業態より重い位置を占めます。
ドラッグストアでは、保健・美容・日用品それぞれの構造的な要因を見たうえで、食品スーパーとの競合関係も確認します。食品の取り扱いが広がった結果、業態の境界が曖昧になっているためです。第3層で見るべき競合の範囲が、業態内にとどまりません。
家電量販店では、耐久財の買い替え時期の判断と、政策要因、買い替えサイクルを重視します。数年単位の周期で需要が動くため、第1層の政策・制度の変更が売上に直結しやすい業態です。
いずれの場合も、5つの層を省くのではなく、重みを変えて配分します。省いた層は、想定が外れたときに原因を説明できない穴になります。
まとめ
市場予測の目的は、未来を当てることではありません。未来に対して判断できる状態を作ることです。
5つの層に切り分け、3つの見通しで備える。売上高を数量と単価に分けておく。この3つを揃えておけば、想定と違う展開になっても、どこがずれたのかを特定して打ち手を切り替えられます。そして次回は、その分だけ精度の高い前提から始められます。
市場予測レポート作成のご案内
本稿で紹介した5層の枠組みを使い、貴社の業態・商圏・重点カテゴリに合わせた市場予測レポートを作成します。
納品する内容
6か月先を原則の対象期間として、5つの層の要因を統合した見立てを提示します。期間は要件確認の段階でご希望をうかがい、3か月先や1年先など、貴社の計画づくりの周期に合わせて調整します。
ベース・上振れ・下振れの3つの見通しを作成し、それぞれについて売上高を販売数量と平均単価に分解します。あわせて、予測が外れた場合にどの層の想定がずれたのかを確認できる形で、前提条件を整理してお渡しします。
原則を6か月先としているのは、商品の手配、売場の設計、販促物の制作、人員の配置といった準備が、実際にはそれだけの時間を必要とするためです。3か月先の見立ては、すでに動き出している計画の微調整には使えますが、方針そのものを決める材料としては遅いことがあります。
進め方
最初に要件確認を行います。業態、商圏、重点カテゴリ、予測したい期間を確認する場です。
その後、5つの層を統合して3つの見通しでレポートを作成します。初稿までの目安は10営業日から15営業日です。
納品時には、あらためて見立てと前提、レポートの使い方を共有します。
打ち合わせはオンラインを基本としていますが、対面での実施も可能です(首都圏中心。遠方の場合は交通費と移動時間相当をご相談させていただきます)。
料金
市場予測レポートの作成は15万円からお受けしています。対象期間、商圏、カテゴリ数、分析の深さによって変動します。
ご相談の際にお知らせいただきたいこと
次の4点を添えていただくと、要件確認が速く進みます。
1)業態(例:総合スーパー、食品スーパー、ドラッグストアなど) 2)主な商圏(例:東京中心の関東) 3)重点カテゴリ(例:食品、日用品、住関連など) 4)予測したい期間(例:6か月先、3か月先、1年先。お決まりでなければ6か月先を前提にご提案します)
原則として5営業日以内に、要件確認のご返信を差し上げます(繁忙期は前後する場合があります)。
お問い合わせはこちらから:
https://satake-p.com/contact
無料で公開している実例について
市場予測の考え方は、毎月「月刊販促設計」として公開しています。前年同月の家計調査と気象データを中心に、3か月先の販促を見立てる内容です。実際の読み方と結論の出し方を確認いただけます。
月刊販促設計(note):
https://note.com/mitaka_hansoku/m/m0a0900663bfa
無料の連載は、公表されているデータの最小限の組み合わせによる見立てです。有料の業務では、5つの層すべてを統合し、貴社の商圏とカテゴリに合わせた形にまで落とし込みます。