家計調査が公表されると、「消費支出は前年同月比○%増」「食料は○%減」といった数字が報じられます。
消費の動きを知るうえで、こうした数字は重要です。
しかし、販促を考える立場からすると、前年比を確認しただけでは、まだ判断材料として十分ではありません。
例えば、昨冬のある月の「家具・家事用品」への支出が、前年同月比で10%増えていたとします。
この「10%増」を見て、
「需要が伸びている」
「今冬もこの分野を強化しよう」
と判断してよいのでしょうか。
一部の品目だけが大きく伸びた結果かもしれません。
比較対象となる一昨年の同じ月が特殊だったのかもしれません。
物価上昇によって支出金額が増えた部分もあるかもしれません。
気温などの外部環境によって、一時的に必要性が高まった可能性もあります。
あるいは、前の月から需要が移ってきただけかもしれません。
つまり、家計調査に表れた「10%増」は、販促の答えではありません。
当社では、家計調査の数字をそのまま販促計画に使うのではなく、なぜその数字になったのかを考え、次の判断に使える形へ加工することを重視しています。
家計調査は、読んで終わるための統計ではありません。
では、過去の消費を示す統計を、どうすればこれからの販促に使えるのでしょうか。
家計調査でわかること、わからないこと
家計調査は、世帯が商品やサービスにどの程度支出したのかを調べる総務省統計局の統計です。
食料、住居、光熱・水道、家具・家事用品、被服及び履物、保健医療、交通・通信、教育、教養娯楽など、家計の支出を幅広く確認できます。
当社が月ごとの消費動向を見る際に主に確認しているのは、「二人以上の世帯」のデータです。
二人以上の世帯については月ごとの結果が集計されており、消費の動きを継続して追うことができるためです。
ただし、家計調査から直接わかるのは、すでに起きた消費です。
来月、何が売れるのか。
今冬、どの商品を強化すべきなのか。
そこまで家計調査が教えてくれるわけではありません。
また、ある費目が長期間伸びていたとしても、「これまで伸びてきたから、次も伸びる」とは限りません。
では、なぜ過去のデータが未来の販促を考える材料になるのでしょうか。
家計調査からは、ある条件のもとで、家計がどこにお金を使ったのかを見ることができます。
そのときの所得、物価、気象、季節、暦などの条件と支出の関係を整理し、これから迎える時期の条件の見通しと比べれば、
「同じような動きが起こりそうなのか」
「今回は違う動きになりそうなのか」
を考える材料になります。
家計調査が教えてくれるのは、「次に何が売れるか」ではありません。
どのような条件のもとで、家計のお金がどう動いたのか。
そこを読み取ることに意味があります。
過去の数字を、そのまま未来へ延長するのではない。
過去の「条件と支出の関係」を、次の判断に使う。
これが、当社が家計調査を販促に使うときの基本的な考え方です。
実際の業務では、案件や目的によって確認する順番やデータは異なります。家計調査から始める場合もあれば、気象や販促時期など、別の条件から確認する場合もあります。
ここでは、当社が実際の業務で行っている考え方を、説明のために5つの工程に整理して紹介します。
工程1 何が数字を動かしたのかを分ける
工程2 その「前年比」が何を表しているのか確かめる
工程3 条件を重ね、生活者の行動に読み替える
工程4 これからの条件の見通しと比べ、次の判断へ変える
工程5 実績が出たら、仮説を確かめる
※以下の「家具・家事用品が前年比10%増」という事例は、家計調査の使い方を説明するための仮の例です。特定の年月の実績を示すものではありません。
工程1 何が数字を動かしたのかを分ける
最初にするのは、「10%増」という数字をそのまま評価しないことです。
家具・家事用品全体が10%増えていたとしても、その中のすべての品目が同じように伸びているとは限りません。
ここでは仮に、内訳を確認すると、増加の大きな部分を冷暖房用器具が占めていたとします。
すると、最初の「家具・家事用品の需要が10%伸びた」という見方から、
「家具・家事用品全体が伸びたというより、冷暖房用器具の支出増が大きく影響していたのではないか」
と、見るべき対象が変わります。
消費支出全体を見る場合も同じです。
全体の前年比だけでなく、どの費目が全体を押し上げ、どの費目が押し下げたのかを見る。
家計調査の月次の公表資料では、消費支出の内訳について実質増減率への寄与度も示されています。当社でも、全体の増減だけではなく、どの費目の影響が大きかったのかを確認しています。
必要に応じて、さらに品目まで確認します。
つまり、
全体 → 費目 → 品目
と数字を分けていきます。
ただし、細かく見れば見るほど確かなことが言えるわけではありません。
家計調査は、全国から抽出した世帯を対象とする標本調査です。特に購入頻度の低い品目などでは、月ごとの支出額が大きく振れることがあります。
冷暖房用器具も、毎月すべての世帯が購入する商品ではありません。
一つの月だけを見て「需要が急増した」と判断せず、前後の月や関連する品目なども確認する必要があります。
この工程でわかったことは、「10%増」の中心には、冷暖房用器具の支出増があった可能性があるということです。
では、その冷暖房用器具への支出増を、そのまま「需要が強かった」と考えてよいのでしょうか。
工程2 その「前年比」が何を表しているのか確かめる
次に確認するのは、比較の仕方です。
まず考えたいのが、比較対象となった一昨年の同じ月は普通だったのかということです。
ここでは仮に、一昨年の同じ月が暖かく、冷暖房用器具への支出が低い月だったとします。
そうであれば、昨冬の増加率が大きく見えている理由の一部は、昨冬が特別に強かったからではなく、比較対象となった一昨年が低かったからかもしれません。
一昨年の同じ月の前後に、需要の前倒しや反動がなかったかといった点も確認する必要があります。
もう一つ確認したいのが、物価の影響です。
購入する量が変わっていなくても、商品の価格が上がれば支出金額は増えます。
金額が増えたからといって、需要そのものが同じ割合で増えたとは限りません。
そのため当社では、名目の支出金額だけでなく、物価変動の影響を除いた実質の動きも確認します。
ただし、品目まで細かく見ていくと、物価の影響を同じように数字で切り分けられないこともあります。その場合は、支出金額の伸びには価格上昇の影響が含まれている可能性がある、という前提を残したまま判断します。
仮に昨冬の10%増に、一昨年の低さや物価上昇の影響が含まれていたとすれば、最初に見た「10%増」をそのまま需要増と考えることはできません。
この工程でわかったことは、「10%増」のすべてが昨冬の需要の強さを表しているわけではない、ということです。
では、それでも冷暖房用器具への支出が増えたのはなぜだったのでしょうか。
工程3 条件を重ね、生活者の行動に読み替える
ここで考えるのが、
なぜ家計は、その時期に冷暖房用器具へお金を使ったのか。
ということです。
家計調査だけで、その理由をすべて説明することはできません。
そこで当社では、必要に応じて気象、所得、物価、暦など、消費に影響した可能性のある条件を重ねて考えます。
ここでは仮に、昨冬のその月に気温が急激に下がった時期があったとします。
ただし、
「寒かった」
→「暖房器具が売れた」
と直接結びつけるわけではありません。
当社では、
気象が変わる
↓
生活者の行動が変わる
↓
商品の必要性や緊急性が変わる
↓
支出先が変わる
という流れで考えます。
急に寒くなった。
それまで暖房器具を必要としていなかった家庭でも、使用や買い替えの必要性が高まった。
「そのうち買う」ものだった商品が、「今必要なもの」になった。
その結果として支出が動いたのではないか。
ここまで考えると、「冷暖房用器具が伸びた」という統計上の動きを、生活者の必要性が急に高まった結果ではないかという行動の仮説に置き換えることができます。
気温と消費の関係については、実際の家計調査と気象データを使い、別の記事でも検討しています。
→ 「暑いから売れる」「寒いから売れる」は本当か――天気予報を売上予報にしないために
この例では気象を取り上げましたが、実際には所得や物価、暦、需要の前倒しや反動など、確認すべき条件は対象によって異なります。
例えば、収入が増えても、すべての支出が増えるとは限りません。家計に余裕が生まれても貯蓄に回る場合もあれば、必要性の高い支出へ集中する場合もあります。
また、ある月に大きく伸びた商品が翌月に落ち込んでいれば、需要そのものが消えたのではなく、購入時期が前倒しされた可能性も考えられます。
重要なのは、費目名や品目名をそのまま見るのではなく、
生活者は何を必要としたのか。
何を優先したのか。
何を後回しにしたのか。
という行動へ読み替えることです。
この工程で、「10%増」は単なる需要増ではなく、急な冷え込みによって商品の必要性・緊急性が高まり、支出が動いた可能性がある、という仮説に変わりました。
ここまで来て、初めて次の販促を考えられます。
工程4 これからの条件の見通しと比べ、次の判断へ変える
過去の数字の背景が整理できたら、今冬について考えます。
今回の仮の例では、昨冬の冷暖房用器具への支出が増えた背景として、
急な冷え込みによって「今すぐ必要」という需要が生まれたのではないか
という仮説を置きました。
同時に、工程2では、昨冬の「10%増」の一部に、一昨年の支出の低さや物価上昇の影響が含まれている可能性も確認しました。
したがって、昨冬の10%増という数字そのものを、今冬の需要見込みの基準にはしません。
一昨年の低さや物価の影響を考慮しながら、昨冬に実際の需要がどの程度動いたと考えられるのかを見極め、そのうえで今冬の条件と比べます。
今冬の気温はどのように見込まれているのか。
昨冬とはどのような違いがありそうなのか。
所得や物価の環境はどう変わっているのか。
昨冬に購入した人が、今冬も同じ商品を必要とするのか。
こうした条件を確認したうえで、
いつ重点化するのか。
どの商材を取り上げるのか。
どのような切り口で伝えるのか。
どの程度の強さで展開するのか。
想定した条件にならなかった場合にどう考えるのか。
を整理します。
ただし、数か月先の販促計画を立てる時点で、急な冷え込みがいつ来るのかを言い当てることはできません。
そこで、昨冬と同じ日付に需要が動くと決めつけるのではなく、「冷え込みによって商品の必要性が高まれば需要が動く」という条件と、それが起こりやすい時期の幅を計画の中に置いておきます。
重要なのは、未来の日付を正確に当てることではありません。
どのような条件になったときに需要が動くと考えるのかを、あらかじめ明確にしておくことです。
今回の例なら、
「昨冬と同じ日付だから暖房関連を強化する」のではなく、需要が動く条件と今冬の見通しを踏まえ、重点化する時期や展開の強弱を考える
という判断になります。
当社では、こうした判断を月間・週間の販促計画へ落とし込んでいきます。
その一つが「販促カレンダー」です。
前年の消費はどうだったのか。
なぜその数字になったのか。
これからの条件はどうなりそうなのか。
どの条件になったときに需要が動くと考えるのか。
こうした前提を整理したうえで、月間テーマ、週別テーマ、重点商材、訴求などを組み立てます。
当社が考える販促カレンダーのつくり方については、こちらで詳しく紹介しています。
→ 販促カレンダーとは何か――年間行事表で終わらせない販促計画のつくり方
この工程で、「10%増」は「同じ商品を強化する」という答えではなく、「需要が動いた条件と今冬の見通しを比べ、重点化する時期や展開の強弱を考える」という販促方針に変わりました。
工程5 実績が出たら、仮説を確かめる
販促計画を立てたら、そこで終わりではありません。
時間がたち、実際の家計調査が公表されたら、もう一度数字を確認します。
今回の例なら、
「冷え込みによって商品の必要性・緊急性が高まれば、冷暖房用器具への支出が動く」
という仮説を置いています。
では、今冬は実際にどうだったのか。
想定していた条件になったのか。
支出は動いたのか。
予想通りだったのであれば、どの前提が機能したのか。
動かなかったのであれば、何が違っていたのか。
気象の前提が違ったのか。
所得や物価の環境が変わったのか。
比較対象の特殊要因を十分に見ていなかったのか。
生活者の行動について置いた仮説そのものが違っていたのか。
こうして、計画を立てたときの前提と実績を照らし合わせます。
家計調査には公表までに時間差があります。月次の結果は、おおむね対象月の翌々月の初めごろに公表されるため、足元の売上を即座に判断するためのデータではありません。
一方で、実績が公表された後に自分たちの仮説を検証し、その結果を次の販促設計へ戻すことはできます。
この工程では、「10%増」から立てた仮説と販促判断が妥当だったのかを確かめ、次の判断を修正します。
家計調査を継続して見る意味は、この循環にもあります。
家計調査を読む目的は、「次の一手」を考えること
最初に見たのは、
「昨冬の家具・家事用品が前年比10%増」
という一つの数字でした。
そこから5つの工程を通して考えてきました。
工程1 何が数字を動かしたのかを分ける。
増加の中心に冷暖房用器具がある可能性を確認する。
工程2 その「前年比」が何を表しているのか確かめる。
一昨年の低さや物価上昇が数字を大きく見せていないかを確認する。
工程3 条件を重ね、生活者の行動に読み替える。
急な冷え込みによって商品の必要性・緊急性が高まったのではないかと考える。
工程4 これからの条件の見通しと比べ、次の判断へ変える。
昨冬の10%増をそのまま基準にせず、今冬の条件を踏まえて重点化する時期や展開の強弱を考える。
工程5 実績が出たら、仮説を確かめる。
実際の条件と支出を確認し、次の販促設計へ戻す。
同じ「10%増」という数字でも、ここまで進めると意味が変わります。
最初に見えていたのは、過去に起きた結果です。
5つの工程を通して考えることで、それが、
「どのような条件で需要が動いた可能性があり、これから何を確認し、どう動くべきか」
という判断材料になります。
もちろん、実際の分析がいつもここまできれいにつながるとは限りません。
原因を一つに絞れないこともあります。
複数の条件が重なっていることもあります。
案件によって、確認するデータや考える順序も変わります。
だからこそ、数字だけで結論を出さず、どのような前提で判断したのかを残しておくことが重要だと考えています。
家計調査を読む目的は、数字を説明することだけではありません。
その数字から、次に何を判断するのか。
当社が家計調査を使うのは、過去の「条件と支出の関係」を読み、これからの条件と比べ、次の判断に使える情報へ変えるためです。
そして、実績が出たら、その判断が妥当だったのかをもう一度確かめる。
この繰り返しが、次の販促設計につながっていきます。
こうした分析を販促計画へつなげる一連の考え方については、こちらで紹介しています。